①訪日外国人数とホテルの増加
全国的にホテルの開業ラッシュが起こっている。訪日外国人数が増加を続けており、外国人の宿泊需要に応えるためというのがホテルの開業が相次いでいる背景だ。下の図は2010年以降の訪日外国人数と外国人の延べ宿泊数の推移を示している。2011年に震災により一時的に減少したもののその後は急速な勢いで増えている。政府の目標では、2020年の訪日外国人数を4000万人にするとしており、一部の報道によると訪日外国人の受け入れのため、2020年末までに主要8都市(東京、大阪、名古屋、札幌、仙台、京都、広島、福岡)で合計8万室のホテル開業が予定されている。供給過多になっているという懸念もあるが、2020年には東京で3500室程度客室数が不足するという。そのため、ホテルの開業は今後も続くものと予想される。
②異業種からのホテル参入
世界的に観光産業は成長産業と言われている中で、他業種からもホテル事業に対する熱い視線が注がれている。他業種ということで言うとHISの「変なホテル」などもその例にあたるのかもしれないが、旅行業などの隣接業にとどまるわけではない。少し遡ると老舗洋菓子店ドンレミーが10年ほど前にホテル事業に参入しており今では4件のホテルを運営しており、最近では「WIRED CAFÉ」を展開するカフェカンパニーが「WIRED HOTEL」を開業した。また、2019年の春には「MUJI HOTEL」が銀座で開業する予定だ。このMUJI HOTELはすでに深圳と北京では開業しており、この度、日本に逆輸入する形となっている。運営自体は他社が行うものの、コンセプト作りやデザインは良品計画が手掛けるものであり、建物内にグローバル基幹店となる無印良品の大型店舗を併設する予定である。異業種のホテル事業は、その独創性に注目が集まりやすく、成長分野としてホテルに注目している面もあるのだろうが、それだけではなく本業との相乗効果を狙い、本業の戦略とも合致し成長させることも狙いの一つとなっているようだ。
③宿泊特化型の供給集中
最近開業したホテルの傾向として、レストラン、宴会場などの設備があるフルサービス型ホテルよりも圧倒的に宿泊に特化したホテルが多いということが挙げられる。CBREの調査では、今後開業するホテルでは8割以上が宿泊特化型であり、そのうち半分以上がビジネスホテルということだ。宿泊特化型はホテルの敷地のうち客室の占める面積の割合が高くなるため、稼働率が高いホテルでは特に売り上げが多くなりやすく、かつ人件費やその他のコストも抑えられるため、利益率が高くなりやすい。また宿泊特化型の方が出店もしやすく、さらに新規参入もしやすいという点もこの宿泊特化型が増えている要因の一つとされている。しかし、忘れてはならないのは、国別の訪日外国人数を見てみると中国・韓国・台湾などアジアから来ている人数が多いということであり、アジアからの旅行客の需要にもっとマッチしているのがビジネスホテルの価格帯であるということもあるのだろう。最近ではプリンスホテルでも今年2月に宿泊特化型の「プリンス スマート イン」を恵比寿で開業しており、訪日外国人の需要を捉えるにはミドルクラスのホテルが良いとうことだ。
④宿泊特化型急増に対する課題
宿泊特化型のホテルばかりが増えているということは、ラグジュアリーホテルを求める層には訴求できていないということであり、裏から考えれば宿泊特化型のビジネスホテルに宿泊する旅行者層しか日本に来ることができないという問題が発生しているのである。
2019年に日本で初めてG20が開催されることが決定しているが、その開催地に福岡が名乗りを上げていた。しかし、各国VIPに対応できるほどの客室数が足りないという理由で福岡は落選となってしまった。福岡に限っては特にラグジュアリーホテルが少ないという面があったとはいえ、国際的なイベントや旅行を計画する際に日本が他国と比べられた場合に、ラグジュアリーホテルの少なさで対象から漏れてしまうかもしれない。
さらに、日本のラグジュアリーホテルは海外と比べてサービス面で劣っている面も指摘されている。その原因の一つは高い稼働率だといわれている。日本のホテルではクラスを問わず高稼働が続いているが、逆にそれがサービスを行き届きにくくしている面があり、それによって単価を上げられないという状況に陥らせているということだ。
日本のホテルは旺盛な訪日需要のもとに、とにかく数を求めてしまいがちだが、長期的な支店ではラグジュアリーホテルの中でも差別化を図る必要があるのだろう。