1.「PayPay」キャンペーンのインパクト
2018年の暮れ、ビックカメラのレジに長蛇の列ができていた。スマホ決済サービス「PayPay」で支払いを行おうとする客の列だ。PayPayは12月4日から「100億円あげちゃうキャンペーン」と題し、「PayPay」で決済すると20%または全額(最大10万円)還元が受けられるという大規模な登録・利用キャンペーンを行った。100億円という枠が設定されていたにもかかわらず、このキャンペーンはわずか10日で上限に達し終了した。「PayPay」はソフトバンクとヤフーの合弁会社で、2018年の6月に設立したばかりの決済サービス会社としては後発組である。
2.スマホ決済が進む背景と戦略
政府ではキャッシュレス決済促進策として、キャッシュレス決済を行った場合最大5%のポイント還元を行うと発表している。その中で中心的な決済方法と考えられているのがスマホ決済サービスであり、世界的な動向やこのような国内の施策を背景に各企業がスマホ決済サービスへの参入、市場拡大を進めている。現状、すべての決済方法から見たスマホ決済のシェアは数%しかなく、各社はとにかくシェアを獲得すべくキャンペーンでまず登録者数を増やそうとしている。冒頭の「PayPay」の大規模なキャンペーンもその一つというわけだ。実際「PayPay」はキャンペーンで知名度を一気に上げた。そして、そのすそ野を広げるべく第2弾のキャンペーンが発表された。第2弾では一回の決済で還元額は上限1,000円と設定されたため、長期にわたって利用してもらい、決済手段として定着させたいということなのだろう。この動きに他社も黙っているわけではない。LINEが提供する「LINE Pay」でも支払金額の20%を還元するキャンペーンを発表した。
3.スマホ決済をめぐる各社の動向
スマホ決済サービスに乗り出す企業は流通・金融などの新規事業を成長戦略の一つとして考えている。特に通信キャリアなどは国内の通信市場が飽和状態にある中で、金融業や決済などで利便性を拡大し、利用者を囲い込もうとしている。ソフトバンク以外では、Docomoであれば「d払い」、KDDIは19年4月に「au PAY」を提供するとしている。
その他、iPhoneで利用できる「apple pay」や先ほどの「LINE Pay」、メルカリのアプリがあれば利用できる「メルペイ」などITサービス企業の大手が続々とスマホ決済サービスに参入している。
4.スマホ決済の拡大に求められる店舗の対応
これまでのキャッシュレス決済は、クレジットカードでも、プリペイド型(交通系ICカードなど)でもただ支払うことだけを目的としてきたものがほとんどだった。しかし、QRコード型のスマホ決済サービスではチャージされたり還元されたポイントを知り合いに送金することが可能だ。例えば、飲食店などに行き決済をする場合で考えてみよう。割り勘をするときなど、現金決済であれば全員が同じ額の小銭を持っていなければならなかった。これはクレジットカードやプリペイド型でも同様である。ところがスマホ決済アプリを使えば代表者に一人当たりの金額を送金し、代表者が決済を行えば簡単に割り勘にすることができる。飲食店で活用できればかなり便利であるため、スマホ決済を利用できる店舗を選ぶようになるだろう。
また、ポイント制度やクーポンを発行しているような場合、すでにスマホアプリ上でのサービス展開が広まっているが、そのアプリやアカウントと決済アプリの情報を同期して、簡単にクーポンを利用したり、ポイントカード・アプリを提示せずに自動的にポイントをためることができる。
これらの動向は大手のチェーン店だけに当てはまる話ではない。中国では田舎の駄菓子屋でも「ウィ―チャットペイ」や「アリペイ」を利用することができるようになっている。現金の使用量はかなり少なくなっている。スタートアップの店舗などで立派なPOSを採用したレジなどを導入しなくてもスマホ決済サービスなら安価に設備を導入でき、一定の顧客情報を蓄積することもできる。将来的にはサービス事業者が淘汰される形になると予想されるが、決済を受ける店舗側はキャンペーンの恩恵を受けるためにも早めの導入を検討したいところだ。
HDC編集部 志塚洋介