「イタリアン市場とニーズの変化」
イタリアンの魅力は、新鮮な肉や魚、野菜など彩豊かな食素材、トマト、レモン、オリーブオイルやハーブを使用した酸味爽やかな料理、バターやチーズを使った濃厚な料理、パスタ、ビザなどメニューバリエーションの多さ、ワインなどアルコールとの相性の良さなどがある。日本食やフレンチほど敷居が高くなく、明るく心地良い空間でカジュアルに食事を楽しめるのも魅力の一つで、幅広い年齢層に受け入れやすく、多様な客層ニーズを満たすことができるのがイタリアンだ。
国内のイタリアン市場は2022年以降、ランチ、ディナー共に客数が増加、インバウンド需要や、反動消費の要素も含みコロナ前の市場規模まで回復すると見込まれている。
リストランテ、トラットリア、オステリア、バールなど様々ジャンルがある中で、近年のカジュアルイタリアンニーズに伴い新規参入が相次ぎ、全国的にトラットリア、オステリアなどカジュアルイタリアンの店舗数が増加している。一方で、商圏内での競争激化によりパスタ専門店、ピザ専門店などへの業態変更や、期間限定メニュー、健康志向に対応した低糖質・高タンパク質メニュー、ヴィーガン、グルテンフリーなどのメニュー提供で他店との差別化を図るものの、顧客獲得に苦戦する店舗も多い。
近年、イカジュアルイタリアンの顧客層は多様化し、インスタ映えする料理の撮影目的の来店や、単品注文、アルコールなしで数店舗をはしごする顧客層も増加し、利用シーンやニーズは大きく変化している。コロナ禍を通じて消費者の外食に対する意識や行動の変化に伴い、宴会、二次会需要の低迷、夜21時以降の需要が減少するなど、アルコールとの関係性も変化。業界内ではこれらを背景に、SNS(Instagram・TikTok・X)を活用した効果的な情報発信オウンドメディア化や、テイクアウト、デリバリーなどの提供態の多様化も進んでいる。
「口コミから読み解く人気イタリアンの戦略」
グルメサイトやGoogleマップなどデジタルマーケティングは、今や顧客獲得、集客に欠かせないツール。ウィンザー効果(第三者による評価は信頼性が高いとした心理的効果)を有効に利用した口コミは、消費者・店舗側双方において選ぶ店、選ばれる店の重要な情報源の一つとして機能している。三菱UFJリサーチ&コンサルティング発表の「口コミサイト・インフルエンサーマーケティングに関するアンケ―ト」では、「初めての商品やサービス利用をする際に必ず口コミを確認する」34.4%、「確認することの方が多い」50%で、口コミへの信頼性が高いと感じる条件の1位は「口コミ件数が多い」とされている。
今後もイタリアン市場は拡大すると予測されているが、イタリアンレストランが直面する競争激化、顧客ニーズの多様化に対応するために何をすべきか、そして選ばれる店舗になるための経営戦略、そのヒントは集客ツール「口コミ」を読み解くことで見えてくるのではないだろうか。
「人気店の躊躇なき挑戦」
「トラットリア クアルト池袋」 口コミ平均3.7
◆店舗コンセプト
仕入れから調理まで、全て自社で行うことでできる新鮮な食材を驚愕の価格で提供。
料理人のその日ならではのメニューはアイディアと遊び心が満載、いつ来ても飽きない料理を提供。
席数120席 個室あり
ランチ 12:00~15:00 顧客単価1,000~2,000円
ディナー18:00~23:00 顧客単価4,000~5,000円
口コミ
○ラザニアとパスタが主菜。量が多くチーズもたっぷり。店内手作りパンが美味しい。デザート、ドリンク付きで至れり尽くせり。内装、価格、量、味どれをとってもお薦めできる。
○店内は広々としてオシャレでゆっくりできる。カルボナーラはかなり濃厚で、もちもち食感パスタにクリームが良く絡み最高。パンチェッタの香ばしさ、程よい塩気、噛めば噛むほどうま味が溢れる。ランチはパスタ大盛りが無料で魅力的。
「COLOSSEOコロッセオ 中目黒」 口コミ平均3.9
◆店舗概要
雑居ビルに佇むその奥には、オープンキッチンのあるくつろげるダイニングルームで、気軽にイタリアンを楽しめる空間が。50席のイタリア料理店。
席数 42席 個室あり
ランチ 12:00~15:00 顧客単価1,000~2,000円
ディナー18:00~23:00 顧客単価4,000~5,000円
口コミ
○料理がボリューミー。奥の半個室のような席でゆったり過ごせた。スタッフの対応は気分が良い。
○20代の女子会から同年代カップル、年配層の飲み会としても幅広く受け入れてくれる。賑やか過ぎず、静かすぎず、カジュアルに過ごせる。ボリューム満点で群を抜いてコスパが良い。ワインもどれも美味しい。サプライズプレートを用意してくれて、嬉しかった。
「ROMANOロマーノ五反田」 口コミ平均4.0
◆店舗コンセプト
自社仕入れが実現させたコストパフォーマンス、肉も魚もどこにも負けない!路地裏地下にある隠れ家的イタリアンレストラン。オープンキッチンあり。品川エリア100席ある空間で、使い勝手抜群。
席数101席 個室あり
ランチ 12:00~15:00 顧客単価1,000~2,000円
ディナー18:00~23:00 顧客単価5,000~6,000円
口コミ
○スタッフの接客が素晴らしい。注文を先読みするかのように動いてくれる。料理は今日のおススメがあって、リーズナブルで量があり、しかも美味しい。
○友人の家族と誕生日に。サラダの量にビックリ、野菜の種類も豊富。トリュフ風味フライドポテト外はカリッ、中ふっくらで美味しくておかわりしたほど。豚肉のローストは柔らかく、料理はどれも本格派でありながら全てボリューム満点でコスパが良い。店内は庶民的な雰囲気で若い方も多くて活気がある。また行きたいお店。
上記の店舗を運営するのは、都内にカジュアルイタリアンレストランを7店舗、ワインバー1店舗、総菜・野菜、ワイン販売店メルカティーノ8店舗を展開する東京食彩株式会社。「お客様のお財布を預かる立場」を企業理念の軸とし、多様な客層ニーズ、時代の変化に対する躊躇ない挑戦を続けている。
価格戦略
全ての食材は、自社スタッフが市場から直接仕入れて配送し、泥付き野菜、骨付きの肉、魚を丸ごとその日のうちに捌き、シェフがその日のメニューを考え、お客様へと料理を運ぶ業務内製化により、旬の素材をふんだんに使用した料理をリーズナブルな価格で提供することを可能に。
躊躇なき挑戦
コロナ禍で店舗売上が激減した際、いち早く提供態の多様化に着手、総菜、野菜、物販、ワインを販売するメルカティーノ(小さな市場)を出店。レストランシェフが店内で料理する総菜などが人気となり企業の売上を支える存在に。現在、都内の居住区に8店舗構える。また、自動化、非接触化が進んだことを機に、今年レストランにモバイルオーダーシステムを導入。オーダー対応の効率化で、今までサービスによる指摘が多かった部分の改善に繋げている。
集客手法
グルメ媒体の口コミは、厳しい口コミこそ改善する重要な意見とし、毎月の会議で情報共有し改善に努めている。集客手法はSNSも重要な販促として位置づけ、感度の高い20代のスタッフ提案を取り入れたTikTokショート動画、Instagram投稿と共に、影響力の高い有料グルメ媒体の両建で行いながら、オウンドメディア化を目指す。
社員尊重主義
社員の長期雇用(適材適所への部門異動、レストラン以外でのキャリア継続)を目的とした事業創出、新たにセントラルキッチンを創設。
イタリアンニーズの変化、競争激化への対応
「近年は食べたい物だけ召し上がる、SNSに上げる料理撮影が目的、モノ消費、コト消費で来店されるなど、利用のシーンや店の使い方が多様化している。競争激化の視点においては、特にコロナ後はジャンルの壁がなくなり、居酒屋、コンビニ、Uber Eatsも競争相手に。来た方がどういう気持ちになって帰っていただけるかが大事であり、サービス面においてさらなる努力が必要」と総務部兼統括マネージャー 古関氏。
口コミと経営戦略を照らし合わせると、特に口コミ評価の高い料理内容、価格価値、ボリューム、コスパと、店舗コンセプト、企業理念が一致。数年前低評価の口コミが多かったスタッフ対応は、今年に入り良い評価も目立ち始めた。新システム導入の効率化及びサービス対応の改善、人材育成などに取り組む企業努力の反映と捉えられる。賑やか過ぎず、静か過ぎない心地良さ、カジュアルに過ごせるなどと店内空間の評価は概ね高く、顧客層に合わせた空間づくり、導線オペレーション効果が見て取れる。
「ユーザーエクスペリエンスを高める食空間」
「La Brianza (ラ・ブリアンツァ)」 口コミ平均4・0
◆店舗コンセプト
地方料理の豊かさや調理法、旬食材や生産者の想いの詰まった食材を大切にし、身体にも安全で安心な料理を心がけ提供。落ち着いた雰囲気の店内で、本物のイタリアンをゆっくり楽しめるレストラン。
席数44席 カウンター席あり
ランチ 11:30~15:30 顧客単価4,000~5,000円
ディナー17:30~23:00 顧客単価10,000~15,000円
口コミ
○全体の雰囲気は落ち着いた素敵な空間、客層も穏やかな方が多い。お店に期待値があったので、お料理説明する人としない人、お皿を下げる時の声かけがない接客が気になった。
○トリュフのオーブン焼き、これが美味しい。定期的に通いたくなる理由のひとつ。
○コース料理は立地にしてもリーズナブル。どの料理もしっかりクオリティが高く旨い、スタッフ対応も素晴らしい。
DepTH brianza (デプス ブリアンツァ)口コミ平均4.0
◆店舗コンセプト
お客様、スタッフ、生産者の方々、お店に携わる全ての人が主役になるイタリア料理。麻布台ヒルズの一角に開かれる、生産者の方々が大切に育てた食材を丁寧に調理し、大切なお客様にお届けする12席の小さなレストラン。
ランチ(土日祝のみ)12:00~15:00 顧客単価15,000~20,000円
ディナー 17:00~23:00(土日祝18:00~23:00) 顧客単価20,000~30,000円
口コミ
○高級感が溢れながら、どこかアットホームな感じが居心地よい。コースはモダンのようでクラシカルなイタリア料理、「和」を感じる一品が点在している。
○食材の新鮮度抜群!提供スピードがちょうど良い。イタリアンなのにラーメンが、しかも、これが美味い。お店の方もとても気さくで、話し易い方ばかり。
○まるで奥野さんの家に招かれた様なアットホームな雰囲気を醸し出しながらも専門知識、ホスピタリティ抜群。
Focacceria la Brianza(フォカッチェリア ラ ブリアンツァ)口コミ平均3.7
◆店舗コンセプト
イタリア地中海に面したレッコ村の伝統料理「フォカッチャ デ レッコ」や、旬の食材を使ったアラカルトメニュー。イタリアンと相性が良い日本酒「新政」とのペアリングを堪能できる日本橋駅直結のカジュアルレストラン。
ランチ 11:00~15:00 顧客単価2,000円~3,000円
ディナー 17:00~22:00 顧客単価6,000円~8,000円
全席72席 個室あり
口コミ
○食事もどれもボリュームたっぷり、 スタッフも日本酒が詳しく親切な方が多い。
○味は悪くなく、新政のラインナップもすごい。日本橋高島屋新館の中にあるレストランと考えれば内容と値段は納得。
○受付で案内してくれた男性は笑顔で対応してくれたが、女性のスタッフの接客のレベルが低い。お料理はそれなりだからこそ、スタッフの対応が残念。
上記3店舗を含むBrianza Groupのイタリアンレストランを都内に6店舗展開する他、大手企業からの業務委託によるレストラン「ASTERISCO」の運営、経営コンサルティング、レシピ提供も手掛ける株式会社Signal。斬新なイタリア料理と独創的な食空間を創造するイタリアンレストランを次々開業し、業界内外から注目されている。
同社オーナーシェフとして日々店舗に立ちながら、店舗企画運営、コンサルティング、企業経営をこなす代表取締役 奥野氏に、多店舗展開の観点から見るイタリアンニーズ、企業戦略、ホスピタリティについて聞いた。
Q 口コミのチェックは?
A 全店舗見ている、どの社員よりも。何故ならば、社長という立場になると誰も自分に対して苦言を呈してくれなくなるから。では誰が言ってくれるか?それはSNSやメディアの方々。不評などの口コミやメディア記事こそ店が伸びるチャンスと捉えている。
Q スタッフ評価が低い店舗の取り組みは?
A スタッフ対応の取組みをしない時はない。麻布十番でも日本橋高島屋でも営業させていただいているが、麻布十番で言えばBrianzaを求めて来られるお客様が多い、つまり、既存のサービス方法で全く問題がない。日本橋高島屋ではBrianzaを求めて来られるお客様と、日本橋高島屋を求められるお客様がいらっしゃる。日本橋高島屋というコンサバティブな日本人の価値観を持ったお客様が集う場所では、Brianzaのやり方が通用しないことも多々ある。低評価をいただく場合、これが一つの原因だと思っている。ではどうするか?マネジメント・コントラクトとしての利益を考え、高島屋クオリティをどこまで重要視できるか、その辺のアジャストを考えてリビルドする。
Q SNSに左右される時代、創業時と変わった?
A 変わらない。情報量が増えているだけで、その情報をどう精査し操作するか、いち早く掴むかが大切。それには若いスタッフと話し、現場の声を聞くこと。彼らが直面しているものが、僕の直面しているものでもあるから。スタッフが何を考えているのか知り、スタッフには自分が何を考えているかをわかるように思考を共有する。お互い信用できる関係でいることは、お客様以前に大切なことだから。
Q 企業としての最大の強味は?
A スタッフの待遇。もちろん弊社以上の企業もあるが、町場のレストランという観点から給料面、待遇面、労働環境は高水準だと思っている。
Q 離職率の高い外食産業、解決方法は?
A 社員の幸福度を上げる、給料を上げる、時間的配分、分配率を上げる、福利厚生など色々なことがあると思う。業界はそれらも整えて、ますます良くしなければいけない。若い人材の将来を見据えながら、ある程度の権限を持たす、信頼して思うようにやらせてあげる、失敗したら助けてカバーしてあげるなど、ここで働くことのやりがいを持たせてあげることも大切。
Q イタリアンニーズは変化している?
A ニーズの変化は感じない。ただ、イタリアンの在り方は変わってきていると感じる。例えば、数十年前と比べてイタリア自体でもイタリアンというものが変化し、日本人も日本食以外の食事が増えているということ。つまりイタリアンの需要は伸びる可能性があるか、現状と変わらないか、そこをどう捉えるかにある。そして、自分がどこのポジションを狙っているかということなのでは。
Q シェフとして一番大事なことは?
A 良い食材!自分が思う良いシェフの条件とは、良い食材が多く取れること。この食材をこのシェフに使ってもらいたい、そういう想いが集まるということ。つまり、生産者がこのシェフになら食材を預けたいと思っていただけるかどうか。良い食材が集まれば良い料理ができないわけがない。良い食材=高額な食材ではない。
Q 店舗戦略は?
A 店内空間についてはBRIANZA TOKYOなら東京カレンダーの表紙になれる店、ACiD brianzaなら北欧の小さなレストランなど、各店舗コンセプトイメージがある。先ずは雰囲気、その次は導線。店舗戦略、イタリアンはカジュアルで気軽に入りやすいという地位を維持するために間口は広くすること。自分がシェフと呼ばれるのではなく、愛称「おっくん」と呼ばれるように持っていくこと。基本的にリピーターのお客さんは自分のことを友達、仲間だと思っている。昨年開業した麻布台ヒルズは客単価3~4万円代、そこですら「おっくん家」に行くと思ってもらいたい。
Q ホスピタリティとは?
A ホスピタリティは対人間同士のことなので、基本的に合うか合わないか。私たちは弱い立場ではなく、価格に値するサービスを提供しているプロ。ホスピタリティという概念に縛られて、合わない人間をずっと大事に可愛がってホスピタリティ満開にしても無理がある。無理であれば、合うお客様を探し集め固めれば良いと考える。多店舗展開をしている立場においては、アンテナを張り続けていればホスピタリティという問題は解決できるというのが自論。
Brianza Groupオーナーシェフのインタビューから導き出される経営戦略が、ユーザーエクスペリエンスとして口コミに反映。コンセプト際立つ店内空間、導線オペレーション、イタリアンを介して生産者とエンドユーザーを繋ぎ、美味しく楽しい食空間を演出。増大する情報に弄されず、潮流の変化を素早く察知する感度、万人受けを狙わないホスピタリティで、また行きたいと思わせるイタリアンの存在感を生み出している。
膨大な情報量、多様な客層ニーズを捉え、「顧客層の明確化」「確固たるコンセプト」「デジタルマーケティング」「価格価値」「人材育成とチームワーク」など多角的な取り組みと、口コミの有効活用、そして時代の変化に対応する柔軟性、躊躇のない挑戦こそが、選ばれる店舗づくり、ひいてはイタリアン業界活性化への道筋となる。
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企画=ホスピタリティドットコム編集部
文=山崎典子