*1 リコピンの構造について
リコピンの構造には大きく分けて、「トランス体」と「シス体」があります。これは同じ化学式ながら化学構造が異なる幾何異性体の一種です。炭素二重結合において、炭素が反対側にあるものをトランス型、同じ側にあるものをシス型と呼びます。
*2 ジアリルジスルフィドとは、にんにくやたまねぎを調理することで生成される香り成分であり、一般的に食欲をそそる香り成分の1つと言われています。
■リコピンの健康効果について
トマトに含まれる赤い色素であるリコピンは、活性酸素を消去する抗酸化作用などを有することが明らかになっています。体内の活性酸素が増えると、細胞が傷つけられてしまいます。つまり増えすぎた活性酸素が細胞にいたずらし、 「体をサビたような状態」にしてしまいます。リコピンはこの活性酸素を消し去って、生活習慣病から私たちの身体を守ってくれる働きをしています。
■リコピンの体内への吸収性について
様々な研究により、リコピンは「トランス体」よりも「シス体」の方が体内に吸収されやすいことが報告されています(*3)。リコピンが体内に吸収されやすくなることで、より一層の健康効果が期待できます。
これまでの研究により、生トマトに含まれるリコピンは主に「トランス体」として存在しますが、油と一緒に加熱することで「トランス体」から「シス体」に変化することが分かっています(*4)。
またリコピンの体内への吸収を高める手法として、リコピンの構造を「トランス体」から「シス体」に変化させる以外にも、「加工・加熱(*5)」や「乳製品(*6)や油との同時摂取(*7)」が知られています。
*3 Aoki et al., Journal of Japanese Society of Shokuiku. 10(3), 163-170, (2016)
*4 Honda et al., Europ. J. of Lipid Sci. Tech. 119, 1600389, 1-9, (2017)
*5 Gärtner C. et al., Am. J. Clin. Nutr. 66(1) ,116-122, (1997)
*6 佐々木ら、果汁協会報. 580, 21-28, (2006)
*7 Brown M.J. et al., Am. J. Clin. Nutr. 80(2), 396-403, (2004)
■研究結果
【本研究の目的】
トマトに含まれる赤い色素であるリコピンは、活性酸素を消去する抗酸化作用などを有することが明らかになっています。リコピンには「トランス体」と「シス体」が存在し、様々な研究により、リコピンは「トランス体」よりも「シス体」の方が体内に吸収されやすいことが報告されています。リコピンが体内に吸収されやすくなることで、より一層の健康効果が期待できます。そこで、当社では名古屋大学との共同研究でトマトに含まれるリコピンを「トランス体」から「シス体」に変化させる技術を研究して参りました。本研究では、様々なメニューでトマトと一緒に使用されている野菜がリコピンのシス体への構造変化に与える影響について比較しました。さらにリコピンのシス体への構造変化を促進する成分の解明にも取り組みました。
【方法と結果】
「野菜がリコピンのシス体への構造変化に与える影響」
トマトペーストと各種野菜とオリーブオイルを混合後、80℃のお湯で30分間加熱し、加熱後の総リコピンに占めるシス体含有率をHPLC法にて比較しました。
その結果、にんにく、またはたまねぎを混合したものは、コントロール(トマトペーストとオリーブオイルのみ)と比較して、統計学的有意にリコピンのシス体への構造変化が促進されることが分かりました。
「リコピンのシス体への構造変化を促進する成分の解明」
にんにくやたまねぎに含まれる特徴的な成分として、「含硫化合物」があります。これらがリコピンのシス体への構造変化に影響していると考え、促進成分の検討を進めました。リコピンと候補となる含硫化合物と油脂を混合後、電子レンジで加熱(500W、4分間)し、加熱後の総リコピンに占めるシス体含有率をHPLC法にて比較しました。
その結果、にんにくやたまねぎを調理することで生成されるジアリルジスルフィドが、最もリコピンのシス体への構造変化を促進することが分かりました。
■名古屋大学大学院工学研究科 後藤教授のコメント
トマト中に含まれる赤い色素であるリコピンの形をトランス体からシス体に変えることで、体内吸収性や抗酸化作用が高まること(*8,9)が一般的に言われています。これまで油と一緒に加熱することでシス体への変換が促進されることが分かっておりましたが、それがトマトと料理の相性が良い、にんにくやたまねぎなどのユリ科野菜と一緒に加熱調理することで、一層シス体リコピンが増えることは、食と健康を考える上で大変興味深いことです。この分野の研究がさらに進展することで、トマト製品のおいしさと機能性の関係性が、よりはっきりと示されるのではないかと期待しています。
*8 Müller L. et al., J. Agric. Food Chem. 59(9), 4504-4511, (2011)
*9 Böhm et al., J. Agric. Food Chem. 50(1), 221-226, (2002)
【まとめ】
今回の研究で、トマトに含まれるリコピンは油と一緒に加熱するよりも、油に加え、にんにくやたまねぎと一緒に加熱した方が、体内に吸収されやすい「シス体」に変化しやすくなること、また促進成分の1つが、にんにくやたまねぎを調理することで生成される香り成分「ジアリルジスルフィド」であることが明らかになりました。この結果から、にんにく・たまねぎ・油を用いたトマトメニューはおいしさだけでなく、リコピンを体内に効率良く取り入れるのに適したメニューであると考えられます。